とわなる愛の証

永遠に続く夜が広い大地を支配していた。「闇夜を統べるもの」とも称される魔族の王に治められたその土地は、ヒトの居住地から遠く離れたところに存在している。
海のように広々としたかの国は「青城国《せいじょうこく》」と呼ばれ、吟遊詩人らの作る詩にたびたび登場していた。「青々と茂る木々が国土を覆うようにして広がっている」がゆえに、そう呼ばれるようになったのである。
「ヒトならざるものが居着く、とわなる夜の国」、あるいは「太陽神に見捨てられた命が行き着く極東の流刑地」として、青城国は認知されていた。人々は絶えず、魔族の襲来を恐れ、ちいさな都や村落に固まって暮らしていた。
だからこそ、日向の存在は、かの国においては異質なのである。

「おれだけ仲間はずれだなんて……。そんなの嫌です」
魔王の城の主寝室《しゅしんしつ》にて、日向は不平を漏らした。絹の寝具をしつらえた寝台の上に寝そべっては、
「おれも角が欲しいっす」
と駄々をこねる。
壁に掛けられた一幅《いっぷく》の絵画を見つめていた魔王──その名も及川という男──がゆっくりと振り返り、すねる日向に視線を据えた。
「でもね、お前は人間だから。魔族じゃないから角を生やせないんだよ」
寝台の端にそっと腰かけながら、及川が言う。頑丈な造りをしたその物体は、比較的大柄な体躯をした及川に乗られても音ひとつ立てない。
しん、とした夜のしじまがあたりに密集していた。外で鳴き交わす鳥たちの声すら、いまは聞こえない。風も久しく絶えている。
夜更け方の魔王城は果てなく静かだ。互いの息遣いの響きすら拾えるほどの深い静寂が、潮《しお》のように満ち満ちている。
「嫌っす。おれも角が欲しい。皆といっしょになりたいっす」
「無理だって」
及川の頬に、そして口許に、微苦笑《びくしょう》があらわれる。
「人間であるお前を魔族にする魔法なんて、この世のどこにもありはしないんだよ」
「でも……」
言いさして、日向は口をつぐんだ。
同様のやりとりは幼い頃から──それこそ、物心ついた時分より繰り返してきた。養父たる及川に抱かれるようになってからも、おなじ内容の言葉を声に出してきた。
「おれも角が欲しい……」いま一度、ひとりごちる。
日向とて及川を困らせたくはないのだが、しかし、これが自分のいだく最大の望みなのだから仕方がない。自身に嘘がつけるほど、日向は器用ではないのだ。
角は、魔族の一員を示すなによりの証左《しょうさ》であった。ゆえに人里に降りるときは、ほとんどの魔族が角を隠した。

けれど、低位の魔族は自力で角を隠せない。
そして日向の実の両親を殺したのは、──その、「低位の魔族」なのだった。

思い出す。
はるか南方の村にて味わったひとつの悲劇を。……目の前で両親を殺された苦しみを。痛みを。

あのときは、実妹《じつまい》の夏を守るのに必死だった。突如、村を襲った低位の魔族は、「ヒトを殺したい」という本能のままに民を襲い、そして日向の両親をも手にかけたのである。
日向や夏もまた、彼らに狙われた。みずからの意志を制御できぬ異形《いぎょう》どもからしつこく追いかけまわされた。
とはいえ、もとよりすばしっこい日向がそう簡単に捕まるはずがなく。
長い逃亡劇を繰り広げたすえ、なんとか、夏を自宅の物入れに隠すことに成功した。間一髪の出来事であった。
しかし月影の冴えるその夜、日向は──魔族から深い傷を受けた。
「ギィ、ギィ」と鈍い声を上げながら、魔族らは幼き日の日向の足に食らいついた。
おのれの皮膚から吹き出す血しぶきが信じられず、日向は身を固くこわばらせる。
「ギィ、ギィ」
鳴き声が聞こえる。ちょうつがいの壊れた鉄扉《てっぴ》のように不穏な声が。
全天に星が満ちるその下で、日向は死を覚悟した。「おれも父さんたちのように死ぬんだ」と直感し、その考えにしばし捕らわれた。
死ぬのは、別に怖くなかった。魔族に襲われた時点で希望はついえていたから。
低位の魔族とはいえ、ヒトの身では打ち勝つことはかなわない。彼らと人間の間にはおおきな隔たりがある。
魔法。
それが、ヒトと魔族の間に設けられた「隔たり」の正体であった。
魔族たちは「魔法」という未知の力を操ることによって、この世の理《ことわり》を自在にねじ曲げることができるのだ。
だから、──魔族に狙われた人間が、彼らから逃れうることなどほぼ不可能であった。一度狙われたら、おとなしく死を受け入れるしかないのである。
右足をかじられながら、日向は「ああ、月が綺麗だ」とぼんやり考えた。遠くに意識を飛ばしたいのだが、足にまとわりつく痛みがそれを許さない。
……痛い。
けれど、うまい具合に気絶できない。
(夏。ごめんな……)
「お前だけでも生きてくれ」と心の底から願った瞬間、
「ギィ……、」
──けたたましい衝撃音とともに、異形の体が飛び散った。
痛みの源が突然失せ、日向はとても驚いた。まさか、救いの手が差しのべられるとは少しも思っていなかったから。
浅い息を吐き出しながら、場に現れた人影を見上げる。
そこには──、実に見目良い、怖いぐらいに見目良い男が立っていた。
日向はごくりと唾を飲み込んだ。男が、黒いローブを着ているのを目にしてしまったためだ。夜のように黒々とした衣服は、ヒトならざるものの象徴なのである。
沈黙がふたりの間に横たわる。口から漏れる浅い呼吸音がやたらおおきく、闇に響いた。
苦痛に顔を歪ませる日向の足許に、男がひざまずく。そして深みのある美声で、
「……ごめん」
とささやいた。彼の表情は、切り立った巌《いわお》のように硬かった。
「低位の魔族をうまく管理できなかった俺に非があるんだ。ごめんね……」
「……あなたは誰ですか」
傷口に手をかざす男に、日向は質問を投じる。
と。
信じがたいことに、痛みが消えた。
「嘘だ……」
思わず呟きを漏らす。
しかし、実際に傷も痛みも消滅したのである。破けた衣服からのぞく皮膚には跡すら残っていない。
「あなたは……」
再度問いを放ったところ、男が日向の右頬に唇を押し当て、静かな声で告げた。

「俺は、及川徹。──青城国を統率する王。人間たちに『魔王』と呼ばれる存在だ」と──。

「チビちゃん、」
名を呼ばれ、日向は我に返った。
見れば、すぐ隣に及川の姿があった。彼はすでに衣服を脱いでいる。
女のようになめらかな素肌を目の当たりにして、日向はつい、目をそらした。
「男同士なのだから照れなくてもいい」とわかってはいるのだが、それでも目のやり場に困った。
ただの友人知人相手であれば、裸ぐらいどれだけでも直視できる。
けれども、及川は日向の恋人だ。肌を許した唯一のひとだ。だから、どうしても間近で見つめることができない。ましてや自分から触れることなどできるはずがない──。
「照れてるの?」
嬉しげな顔をして、及川が問う。
「……かわいい」
豊かな体温を持った二本の腕が伸びてきて、惑う日向の体をそっと押し包んだ。わずかに上下する広い胸に抱かれると、いやがおうにも動悸が早まる。
「ふふ、かわいい……。すっごくどきどきしているね」
「だって……」ようやく日向は目を戻した。「大王様に抱かれているから……」
すると及川が儚い笑みを噛み殺しながら、
「駄目だよ、チビちゃん」
と言った。
闇の中、ひそやかな吐息が響く──日向の唇よりこぼれた、欲情まじりの吐息が。
「『名前で呼んで』って言ったじゃん。恋人同士なんだからさ、遠慮なんかしなくてもいいんだよ?」
「別に遠慮だなんて……」
またしても、日向は口を閉ざした。「恋人同士」という単語を聞いて、照れを深めてしまったのだ。
誰も彼もが寝静まった真夜中、衣服を脱いだ想い人に優しく抱きしめられている──これで興奮を覚えないほうがおかしい。
実際、肉体も精神もひどく昂ぶっていた。
漏れる吐息はわけもなくひずみ、高まる劣情を日向当人に知らしめる。潤んだ瞳はいまにも涙をこぼさんとしている。それに──足の間で息づくものが刺激を求めて、存在を主張しはじめている……。
「駄目っす。明日早いし……。おれ、このままじゃ……、」
「──したくなっちゃうんだ?」意地の悪い微笑を浮かべながら、及川が続きを言った。
全身の皮膚が一気に熱を覚えた。いまの自分はきっと、耳まで赤く染めているに違いない。
「チビちゃん、やらしい顔をしてるもんね。俺に触られて感じちゃった?」
「……」
抱きしめられている都合上、身をずらすことさえできない。
細腰を引き寄せられる。衣服越しにこすれた部分がいっそう硬く猛ってしまう。
「駄目です……」
一瞬、下半身を引いたが、またしても引き寄せられてしまった。
下肢が擦れ合う。ぐ、ぐ、と一定の間隔で腰を押しつけられて、日向は、
「あ」
と息をほどいた。
肌と肌の触れ合いなんていままでにもたくさん重ねてきたというのに、なぜだろうか、毎回あふれんばかりの期待感に胸をはずませてしまう。
身をよじる。
いやらしく昂ぶる場所が、硬さを持ちはじめた及川の熱とこすれ合い、熱く濡れてしまう。
息がたわむ。
興奮のあまり、軽い目まいまでしてきた。
「ん…………」
腰を強く押しつけられたまま、唇を奪われる。息さえほふるような獰猛なくちづけが、ますます股間を猛らせる。
「……んん……っ……」
硬く育ちきった肉塊《にっかい》を押し当てられつつ、口粘膜《くちねんまく》をむさぼり合う。知らず知らずのうちに口唇《こうしん》を開き、生き物のように自在に動く舌を招いた。もう何度も交わしたやりとりだというのに、心までもが熱にまみれる。
「溶けてしまいそうだ」と思った。このままでは及川のもたらす手管にあてられ、はっきりと欲情してしまう。
及川の腰が律動を開始する。まるで性交の最中をほうふつとさせる卑猥な動きに翻弄され、日向は、
「ん……っ、んん……っ……」
と切ない喘ぎをもらした。
いまや日向の分身は痛いぐらいに高まり、欲情し、淫らがましく濡れていた。衣服を隔てていてもそうとわかるほどに屹立し、射精の瞬間を健気に待ちわびている。
腰が揺れる。及川だけでなく、日向もまた、腰を揺らしはじめる。互いの口の間で鳴る粘った水音に煽られて、律動をともにする。
「あ……、は…………ぁ……」
腰を揺らすたびに、あるいは揺らされるたびに、電流のように甘い疼きがゆえなく兆した。股間は早くも大量の先走りにまみれ、喘ぐように息づいている。
忍びやかな動きに劣情を高められると、体の、そして心のどこかに根づく「雌」の部分が反応を示した。長い時をかけ、性器として開発された「孔」が、ひくんとうごめく。
「駄目……。おれ、……このままだと本当に……」
「イきそうなんだ?」
──本音をしっかり言い当てられて、羞恥に口をつぐんだ。
声が漏れる。
揺れる腰は、日向の分身を極限まで追いつめんとしている。芯から熱を持ったその箇所はいまや、言い訳ができぬほどに濡れてしまっている。
「チビちゃんの顔、すっごくぐずぐずになってる。気持ちいいんだね……」
「ん……」
日向はこくりとうなずいた。
「挿れてください……。おれ、及川さんに中をいじられたいっす……」
「乳首はいじらなくてもいいの?」
腰を押しつけたまま、及川が乳頭をはじいた。
「んっ、」と軽い喘ぎ声をこぼしたのち、日向は、
「はい」
とせがむように応える。
胸を彩るふたつの頂もまた、ぴんと張りつめていた。おおざっぱに胸筋ごと揉まれるだけでも、なみなみならぬ快楽を感じるほどであった。
「感度がいいね。……すごくかわいい」
もう一度、唇を塞がれる。
それからしばらく時が経過したのち、ようやく腰が離れた。
夜闇の奥にて、荒れた呼吸音が響く。
射精の訪れを待つ分身を持てあまし、日向はさらに瞳を潤ませた。
窓から射し入る月の光は、淡くて美々《びび》しい。
肌を許しあうこの時が、たまらなくいとおしい。
しばし解放され、ほっと息をついたのも束の間、
「あ……っ……」
──予告なく、後ろを暴かれた。
「ほら……。イってもいいんだよ」
熱のこもったささやき声をこぼしながら、及川が指を奥まで行き来させる。だが、日向はあえて、
「嫌です……」
と拒絶の言葉を吐いた。
「おれ、及川さんといっしょにイきたいっす……」
目を閉じて、高まる射精感を操るために神経を集中させた。いっそう荒れる呼吸をつぶさに意識しつつ、まぶたをきっちり閉ざして、募る劣情を抑え込まんとする。
「そんなに俺とイきたいんだ」
こくりとうなずく。
「……イってもいいのに」
指を出し入れさせながら、及川は誘惑の声を差し向ける。ぐちゅぐちゅという甘い汁音が、開いた蕾のあたりで幾度も鳴り響く。
唇を薄く噛み、息を逃がした。そうでもしないと、すぐにでも達してしまいそうだったから。「及川とともに果てたい」という望みだけは、どうしても捨てきれなかったから。
「強情だね、俺のチビちゃんは……」
名残惜しげに指が抜かれる。たったそれだけの動作が全身に響き、日向は思わず胸を反らした。
いまや前も後ろも、素肌でさえも完全に濡れていた。体全体が苛烈な熱にさらされて、汗と湿りを帯びている。
「早く……」
小声で誘ってみたところ、
「……いいよ」
蜜液のように甘いささやきが、耳に聞こえた。
見つめ合い、ゆっくりとくちづけを交わす。舌を差し出し、たぎった情欲をみずからぶつける。
「……ん……」
ぬめった感触が欲情を募らせ、羞恥心をさらに煽った。刺激を受けた部分すべてが反応を律儀に返し、体を心をとろけさせていく。
下肢を絡めながら、甘やかなくちづけに没頭する。あふれる唾液をすすり合っては、互いの興奮を高め合う。
及川の表情を盗み見る。彼の瞳もまた、切なげに潤んでいた。そうして、さきほどのように腰を揺らめかせては、雄々しく勃起したその箇所を日向の股間に押しつけてくる。
「及川さん……、おれ……」
「……わかった」
再び、腰が離れた。
突然の喪失感に、日向は一瞬だけ身を固くする。
夜の静けさが、すくむ心を強く穿つ。
聞こえないはずの風の響きを、ほんの一刹那、耳にしたような──気がした。
目をつぶる。
沈黙がやってくる。
それから、──それから、
「……っ……」
圧倒的な質量と挿入感をもたらす異物が後ろを開き、体内に押し入ってきた。
「あ、あ……、」
異物だった、それはたしかに。
──けれど体になじまぬはずのその物体は、まるでみずからの肉体の一部であるかのように、すぐにひとつに合わさった。
「……ごめん。きついよね?」
「及川さんだって……」
広い背にすがりつきながら、頼りない声をこぼす。
「おれは大丈夫です。だから、動いて……」
「でも……」
「いいから……」
言って、日向は及川の唇に接吻を与えた。
「チビちゃん……」
太々《ふとぶと》とした性器が奥を犯す。
悶えるようにうごめいていた肉襞《にくひだ》が、熱にさらされ、歓喜をあらわにする。
「動いていいっすよ……」
耳許でささやく。──それから数瞬が経ったのち、望みはかなえられた。
律動が始まる。挿入を伴った、ゆるやかな律動が。
規則的に腰を打ちつけられると、眼前に星のようなきらめきが映った。むろん、それはたんなるまぼろしに過ぎなかったが、しかし、──いまの日向からしたら、まことのものであるかのように思われた。
おのずから足を絡め、角度を調整する。感じる部分を無言のうちに伝えるのは、いつもの癖だ。
「チビちゃんってば、淫乱……っ」
及川の口許に野獣めいた微笑が浮かぶ。だが、日向には応えるほどの余裕がない。
「あ……っ、あ……っ……」
とちいさく喘いでは、男の欲望を根元までくわえ込むことしかできない。それ以外の反応など返せるはずがない。こうして抱かれている間に、ほかのことなど考えられるはずがないのだから。
及川の性器から漏れる先走りが潤滑剤として作用し、挿入を助ける。ちゅくちゅくという湿りを帯びた粘着音が、潤む体内で豊かにはじける。
「あ……、っ……」
一度足をおおきく開き、及川の肉体を深く招き入れた。極限まで感度を高められた体は、すでに男を受け入れるための「器」に成り果てている。
徐々に激しさを増す律動に従いながら、再度腰に足を絡ませ、角度を微調整する。春先の猫のように淫らな声を発しては、愛するひとの劣情を一心に刺激しつづけた。
「……く……っ……」
及川がうめく。うめきながら、狭い孔で自身を扱く。あまりに官能的なその光景は、日向の身をよりいっそう追いつめ、快楽の深みへと誘い込んでいった。
ぐりぐりと自分から腰を押しつけ、快感を増幅させる。男の欲望、もとい、完全に勃起した性器を含んだ場所が、悦んで締めつけを施す。
「あ……、いい……っ……」
女よりも妖艶な声を上げながら、与えられる愛撫を心ゆくまで愉しんだ。震える腰を──射精感と挿入感に支配された細腰をぴったり密着させては、硬く屹立する雄を大胆に扱き立てる。
すべては、精液を中で味わうためであった。及川が中で果てる瞬間を、日向はこよなく愛していたのだ。
「もっと……」
ささやいたところ、及川が日向の尻肉を引っつかみ、荒々しく追い立ててきた。体の中に収まっている陰茎もまた、極限まで張りつめ、切ない悶えを訴えている。
「……っ……、く……」
目を閉じ、唇をうっすら噛みしめ、及川が低くうなる。精を放つそのときを、少しでも引き延ばしたがっているのだろう。
「チビちゃん……」
及川の腕に力がこもる。
「チビちゃん……、好きだよ……」
律動が早まる。
次第に小刻みになっていく腰の動きに陶然としつつ、日向は、
「あ……、っ、……あ……」
と細い嬌声を上げた。みずから腰を動かし、快感を追い、先走りを中ですすっては、収縮する孔をもって及川の雄を念入りに扱く。
日向の陰茎も吐精の瞬間を待ち、ふるふると滴を垂らしていた。
絶頂は──近い。あと数回、腰を振ったら、ともに果ててしまうであろう。
ふたり、無言でひたすら腰を乱す。
奥深くまで挿入され、日向は喘ぐ。

──そして。
予感は的中した。

数度、腰を振り立てたのち、ふたり同時に、
「あ……っ……、」
──と、淫猥《いんわい》な声を上げ、仲良く絶頂した。熱いしぶきが、ふたつの性器より同時にあふれたのである。
「あ……、あ……っ……」
なおも腰をおおきく振り乱してくる及川に、必死の思いでしがみつく。奥まで濡らす精液の感触をたしかに受け取りながらも、
「あ……、っ……。気持ち、いい……」
悦びを言葉にした。それは間違いなく、胸にのぼった実感であった。
事実、体は絶大な快楽に飲み込まれていた。息は荒れ、乳首は芯から勃ち上がり、反り勃つ性器は精液にまみれ、肌はどこもかしこも濡れていた。喘ぐ声もまた、──熱く、そして甘く濡れていた。
力を失い、覆いかぶさってくる及川の体を強く抱きしめる。
「及川さん……。すごく、好きです……」
告げて、彼の両頬に熱烈なくちづけを与え、いま一度、
「好きです……」
とささやいた。
「──俺も」
これまた日向の体を柔い力で抱き返しながら、及川が呟く。弛緩した肉体を──達した直後の肉体を日向に預けては、
「俺もチビちゃんのことが大好きだよ……」
と吐息まじりの甘い声を漏らす。

忍びやかな喘ぎとうめきが、闇のただなかで細かく響く。
優しげな笑みを浮かべる及川にさらなるいとおしさを覚えながら、日向は、最愛の相手の唇めがけて、くちづけをひとつ落とした。

拙い愛撫に過ぎぬその行為は、とわなる愛を示すなによりの証である。

【了】